山形県鶴岡市にある「社会福祉法人 地の塩会 荘内教会保育園」

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2021年7月30日

新型コロナとノアの洪水
-道を誤った人類への警告-

矢澤俊彦



連日伝えられるオリンピックのドラマは、やはり感動的です。若者達があんなに喜んだり、悔し涙に暮れたりする姿に深く心動かされる毎日です。ことに大怪我や病気と闘いながら、栄冠を勝ち得た選手の快哉にふれる時、私達の心の空も晴れてゆくように感じます。
 しかし、この国際的な一大イベントの中にいても気になるのは、新型コロナウイルスの勢いが治まらないことです。私たちの上空にどす黒い暗雲がいつまでも垂れ込めているからです。全く想像もしなかったようなひどい災害がおこったものです。昨年春ごろはしばらくすれば終息に向かうのではと、のんびり構えていたのは、どんなに見当違いであったことか。実際多くの災害(台風や地震等)が局所的であるのと違い、これは徹底的にこの地球全体を例外なく覆い尽くしています。世界の果ての果てにあるどんな離島や山奥、また海の上や砂漠にも襲いかかっている。本当に凄まじい最悪がおこったものです。

ノアの洪水を想う 私はこの有り様を見ながら先日ハッと心に浮かんだことがあります。それは旧約聖書に出てくる、「ノアの洪水」の物語です(創世記第6章)。この有名な話をコロナの出来事と比較しながら紹介してみましょう。

*** 人間の堕落 ***
1.聖書では大洪水が起こったのは、天地創造の神様が人間の行いがもう目に余るほど悪いので、人間をつくったことを深く後悔したからだと記されています。
2.そこで降り始めた大雨は実に40日40夜続き、高い山々も水につかり、地上の全ての人間のみならず、あらゆる生き物も死滅してしまったという壮大な死のドラマです。

*** 大洪水の警告 ***
1.でもこのことが起こる前に人々への警告の時間が長くありました。それは神様から命じられた正しき人ノアが、長い間かかって山から木を切り出すことからはじめて、一人の力で大きな箱船(方舟でなく)造りに取り掛かった。それは小部屋の沢山ある3階建てでした。そこでノアは何年も営々として作業をしながら、もうすぐ洪水がくることを人々に大声で伝えたことでしょう。しかしそれを本気で受け止める人は不思議にもただの一人もいなかったのです。
2.やがて水が引いたあと、生き残ったノアと彼の家族およびかくまわれていた動物達と共に神の祝福を受け、新しい世界に生きることとなったのです。その時大空には大きな希望の虹が出現したそうです。

以上のこの神話風の物語には、私達がよく考えるべき事柄が多く含まれているように感じます。今私に示されていることを以下に記してみましょう。

現代人の行きづまり
1.人間には多くの善や美点が無数にありますが(これは否定すべくもありませんが)、現代人のエゴイズムによる腐敗、堕落はそれらをはるかに凌駕するものでしょう。ことに産業革命以来、個人や集団の高ぶりや権力争いは絶頂に達しつつあり、二度の世界大戦でも懲りず、今や核戦争の耐えざる恐怖に誰もがおののきつつ生きている現状があります。
2.少し前のNHKラジオの深夜便で、画家の渡辺隆次さんは私達人間は自然の生き物達の世界に居候させてもらっているような存在だ、とうまいことを言っておられましたが、今やその居候達が居直って荒れ狂う猛獣のようになり、互いに食い尽くし合うとともに、自然界も滅ぼそうとしているのです。新型ウイルスたちの大量出現も、この為に居場所を追われてしまったことが背景にあると言われています。
3.こうしてみますとコロナの災いはやがてやって来るかもしれない、もっと大規模で破滅的な最悪を避けよ、との警告ではないか、私達が歩んできた誤った道、すなわち自分だけの幸せを求める貪欲(どんよく)を徹底的に改めよ、モノや経済力による快適で便利な生活をどんなに追及しても幸せは遠のいていくばかり、という逆説に気づくように、という「天からの声」ではないか。
4.コロナ禍での大きな収穫は、私達は一人では生きて行けないこと。孤独の解決も生きがい感も一人では決して得られないことの再発見です。皆が同じ感染症を恐れ、世界中の人達がマスクをしている姿を見聞きしているうちに、仲間の人間への限りないいとうしさやけなげさまた有り難さが、どっと心の中から湧き出してきます。本当にひ弱でどうしようもない生き物同士、もっと熱烈に愛しあい、助けあわなければ・・・。
 この為にはどうしたらよいかと私は随分考えてみました。そしてその結論は、各自が貪欲に振り廻されないために悪の元凶である自分というものから脱出することではないか、これは大変困難にみえるけれど、居心地の良い卵の中にぬくぬくと、いつまでも居座っているとそこが墓場となってしまいます。地上を這い回る毛虫も蝶に変身しなくてはなりません。これが国民的規模で生起するのは無理であるとしても、まずただ一人のノアが出てくることは可能でありましょう。そこには見えざる箱船が用意されているのです。
5.しかしその一人の出現も、自分だけの力では無理なのです。卵の中から自力で飛び出すことは出来ない。自分の心の空さえいつも晴れやかにすることは困難、まして黒雲が垂れ込める大空の向こうにある明るい日差しから力を受けて生きることは難しいのです。

心の空晴れる日常 さて、ここまでくるとお気づきの方もおられるでしょうが、宗教というものの出番です。それは「絶対他力」の世界です。自分を超えたはるかに高く大いなる力を受けるということが起こるとき、空の黒雲は霧散霧消するという奇跡が起こるのです。私が過日発刊した小冊子に「汝を宇宙の主につなげ」という題をつけた由縁です。 どの宗教にも縦の線と横の線があります。人間が自分を超越した大きなパワーを身に受けることによってこそ、そのパワーによって横に繋がることができる。周囲の人々からはじめて全人類を抱擁し、自分を愛するように皆を大切にすることが少しずつできていくのです。
 ただし、先に述べたようにこの自己脱出による変身の道はなかなか難しいものです。聖書には自分を頼る人が救われるのは「らくだが針の穴をくぐる」ほど困難だ、とびっくりするようなことが記されています。

毛虫が蝶に しかし、改めてオリンピック選手達の大変な鍛錬と努力の生活を思います。しかもそれは短期間のものではありません。ノアが独力で箱船を造ったような営々たるものです。でもその結果手にする勝利の喜びからみると五輪の金メダルも小さく見えてきます。「自己からのエクソダス」に成功し、貪欲から清められた人は、毛虫が蝶になるように進化し、地上を這うウジ虫がついに天空を自在に飛びまわる小鳥のようになるという、突然変異を経験するのです。それはやがて霞んで行く一時的なものではなく、間違いなく永遠的な勝利の喜びなのです。

荘内日報に掲載されたものです



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