山形県鶴岡市にある「社会福祉法人 地の塩会 荘内教会保育園」
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2020年5月14日
一人遊びができるために -「考える葦」の究極的満足は-
矢澤俊彦
女児の一人遊び ある日の夕方、保育室の隅のコーナーで、一人の女の子が多分お姫様気分?あるいはお母さん気分なのでしょう。着飾って、色々な食器や台所用品を出し入れしながらせっせと働いていました。小声で何かしゃべりながら、とても楽しそう。小さいテーブルにはもう色とりどりのお料理らしきものが並んでいます。少し離れた所に友達がいても気にせず、一人の世界に夢中になっています。私は、かなり長い間彼女の姿に見入りながら、心に感じるものがありました。
一人にはなったけれど 現在コロナウイルスの蔓延で、私たち大人も外出自粛が強く求められている中で、今「ひとりになること」が多い日々です。そこであの女の子のように楽しく遊べればいいのだけれど、なかなかそうもいかず、孤独で悩み、ストレスを引き込むこともしばしばです。しばらく前まではあれほど自分だけになりたい、と思っていたのに不思議、人間とは矛盾した存在、と感じます。
社会関係の意義は? いったいお前は一人でいたいのか、みんなと群がっていたいのか。本当の満足感はどこにあるのだろう?これは誰でも青年時代から随分考えさせられてきた問題です。しかし、うち続くコロナへの警戒で、ほとんど人通りもなくなった“ゴーストタウン”只中で、改めて自分に問いかけるのです。いったい自分にとって(家族も含め)他人との関わりはどんな意味をもってきたのだろう?友人や仕事や社会の存在は?振り返ってみれば、そのおびただしいこと!互いに助けられたり、助けたりの関係。人は決して一人では生きていけないし、人様のために役立つことで生きがいも感じるのですが、そういう関係はその全体として、つきつめたところどんな意味をもっているのだろう。これが騒がしさから遠ざかった今、私の胸に去来する思いなのです。
友人は助けにならない? はたして無数に近いこれまでの社会的関係は自分の心の最も深い希求を満足させるものであったかどうか。ここであの17世紀の哲学者パスカルの言葉を紹介してみましょう。
・・・人間世界の問題、争いも戦争も、その究極的原因はただひとつ。それは我々が一人でいて、楽しく快適に過ごすことができないからである。・・・友人隣人も、あなたの深い悩みの時、助けにはならないであろう。・・・しかし人間は考える葦である・・・。
どれも味わい深い言葉です。彼が言いたいのは、私たち人間は、葦のように弱く小さくもろいのに、反面、考え想像するという凄い力をもっている。一陣の風で吹き飛ばされてしまうのに、人間は言葉や想像力によって宇宙をも呑み込んでしまうほどの偉大な存在。その超越の能力は、自分や社会を超え、この世界や歴史や宇宙をも越え出る・・・こういう大きな存在である自分を受けとめてくれるのは、自分よりはるかに大きな天地創造の神様しかいない。このお方を相手にすることで、私たちの魂は満足し、悩みにも死にも打ち勝ち、狭い四畳半にいても、楽しく「一人遊び」ができる。パスカルの言葉を私はこう理解するのです。
真の神における充足 キリスト教史上最大の人物といわれるアウグスチヌス(4・5世紀)は長い魂の遍歴のあとで記しました。「神よ、われ汝に憩うまで、まことの安らぎを知らざりき」と。
これを少し展開してみますと・・・私たちは本当には神様との関係でしか得ることのできない平安や愛を仲間の人間に求めてきたのです。それは心の底からの充実感であり、高揚感、あるいは自己肯定感、さらには永遠的な幸せや恍惚感でもあります。これらを求めながら私たちは、この世をさ迷い、放浪してきたのです。本当に長い旅路でした。
でもそれはパスカルに言わせると結局「ないものねだり」で、我々を救う力のない無力な仲間たちに求め、周囲の人々に重荷を負わせ、大きな迷惑をかけてきたのではないか?このうえは一刻も早く神様に出会って幸せになり、真に「自立」し、その安らぎや喜びを周囲に分かち与える人となっていかなければ。強く言えば、これまでは他人に期待し、要求し奪い取るばかりの、いわば狼のような存在だったのではないでしょうか?
今の時間を活かして 一人でいることの充実を求めて、なんだか結論を急いでしまい失礼したかもしれません。そこで今は幸い、多くの人にとって時間があります。こんな折りを活かさない手はないでしょう。そうしないとコロナ退散のあとやってくるに違いない多忙の日々の中で、自分自身を再び失ってしまう危険があるからです。冒頭に紹介した女の子のように、私たちのまわりには多くのおもちゃがあり、情報や書物、音楽や映画等、様々あります。それらで遊びながら、自分の本当の幸せのありかについて考えてみましょう。「考える葦」という超能力を存分に生かして。
荘内日報に掲載されたものです
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