山形県鶴岡市にある「社会福祉法人 地の塩会 荘内教会保育園」

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転換期を迎える日本の教育
知識記憶より人間愛へ

-「非認知能力」重視の幼児教育に-

2019年10月2日

矢澤俊彦


愛なき現代社会

 「ただ愛されない者だけが人を憎む」20世紀最大の喜劇役者C.チャプリンの言葉です。現代世界の病根の中心を見事についています。憎しみや暴力や冷酷さにうち勝つ強い愛の社会がいよいよ求められているのです。彼はこう言います。私たちはスピードや快適な生活、機械技術や冨を手にしたが、幸せになるどころか、かえって孤独と貧困と冷酷さが支配する世の中になってしまった。そして教育や知識も普及したが人間不信と、懐疑的精神が蔓延する時代となってしまった、というのです。さてそれではどうしたら、と考えてきた世界の教育者たちは近頃「非認知能力」というものを幼児期から育むことが21世紀を救う、と協調し始めました。この度、日本の幼児教育の指針もこの方向で改定されました。私はこれを読んで、チャプリンを思い出しました。それはこれまでの教育のあり方を大きく改め、社会性を育て、人間愛のあふれる世界を目指そうとするものだからです。

非認知能力の数々

 ではその「非認知能力」を少し紹介しましょう。それは従来の「読み書きソロバン」に代表される知的能力、記憶を中心とするものでなく、まず自分の目や耳で現実を捕らえ、自分の頭で考え判断する、創造的な発想や生き方をする。自分自身の声を出すとともに、他人にも傾聴し、様々な人々と協力する力。周囲に進んで声をかけ、訴え、リードする。価値観など違う人にも関心や興味をもつ。さらには失敗にめげず、忍耐し、立ちあがり、他の生き方を模索し、前向きに生きる勇気。要するに、たくましく生きるパワーをもって自己中心的にではなく、まわりの人たちと楽しく生きる資質なのです。そしてそれらの基礎には情緒的安定と自己肯定感が必要であり、それは何といっても豊かな遊びと与えられる愛情で養われるものであるというわけです。

人類的危機の認識から

 随分理想的で高い目標が掲げられていますが、人類がここまで追いつめられてきた深い危機感の中で、少数の人だけでなく、どの国のどの階層の子供たちも、こんな人間らしい人に育て人類の危機を救いたい、と世界の識者が呼びかけている。日本の文科省厚労省も遅まきながらこれを取り入れ始めたのです。

大きな方向転換

 以上の能力はこれまでの知的教育やテストなどでは計量し判定し認定が困難なので、「非認知能力」などといわれるのですが、これが本格的に実施されるなら、大きな大きな方向転換です。そしてこの達成はそう簡単なものでないことも十分予感されるところです。
 まず大事な幼児期にしっかり親に呼びかけ、保育園幼稚園教師が意識改革の努力をし始めています。でもその先の小中高の教育をどう改革してゆくか・・・これが大きな問題です。これら認知しにくい能力を、現代の競争社会でどう評価認定していくか、課題は山積みです。知能テストでは測れないのですから。

大人が変わること

 さらに気づくのは、先に並べた多くの資質はこれから育てようとする子供だけの課題ではない。それよりはるかに私たちすべての世代の大人たちに不足している能力ではないか、ということです。たとえば、とかく引っ込み思案で無口、話べた、友達もうまく作れず、人を褒めることもせず、認めてあげることもなく、ムズカシイ顔をしている・・・。こんな自分を見い出すと、私も恥ずかしくなり、幼稚園時代に戻って、自分を育て直したいと思うくらいです。あのM.モンテッソーリの「幼児こそ大人の教師」という言葉を思い出します。子供に教えようと思う私ども自身が、あの無邪気な子供たちから学ぶものが、いくらでもあるからです。「保育者は、まず幼子のようになるべし」と厚労省も記してほしいところです。また幼児教育は、学校教育の下請け機関ではないこともお分かりいただけたと思います。

いよいよ人間教育の始まり

 長くなって失礼ですが、戦前から戦後のこれまで、我々の考えてきた「学力」なるものはとても一面的なものでした。「頭がいい」とか「優秀だ」とかということの中身もそうでした。これは国が戦争や復興のために必死で、よい兵隊や会社員・商社マンを育てるのに懸命だったからです。そこに「人間の教育」がほとんど入る余地がなかったのです。振り返れば、あの大学紛争もオウム事件なども、経済価値優先の社会への抗議の声であったとも言えるでしょう。おりしも、幼児教育無償化のために、国民すべてが協力しようとしています。この機会にぜひ私たち大人も自分自身のあり方を検討してみましょう。
 「ただ愛されない者だけが人を憎む」の言葉をしっかり念頭において

(本町三丁目 荘内教会牧師・同保育園長)

この文章は、2019年10月10日(木)に荘内日報の4面に掲載されたものです。


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